もったいないフードロス 現状は? 廃棄食材で中学生が商品開発 食データ活用のビジネスも

Source :朝日新聞|Author : 橋田正城|Date:11/21/2022

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、食料問題がクローズアップされています。両国が輸出する小麦の世界シェアは計30%で、小麦を調達しにくくなった国の食の問題につながっているからです。「94カ国16億人が影響を受けている」(国連報告書)との指摘もあります。各国は保護貿易の色彩を強め、食料や肥料の輸出を規制している国も少なくありません。食品の値上げが相次ぐいま、SDGsの視点で食料のあり方を見つめ直しませんか。

食べられるのに…… 世界で年13億トン廃棄

食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」という問題があります。日本では年間522万㌧(推計)が発生します。家庭からは食べ残しや期限切れの食品が年間247万トン捨てられる一方、食品メーカーからは作りすぎ(売れ残り)や返品、規格外商品などが年間275万㌧生じています。国民1人あたり、毎日お茶わん1杯分(小盛り)の食料を捨てている計算です。世界では年間13億㌧が廃棄され、人が食べることを前提にしてつくられた量の3分の1が捨てられています。

8億人が栄養不足に直面 飢餓も深刻

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界では2021年、7億人~8億2800万人(総人口の9.8%)が栄養不足に直面しています。地域別ではアジアが4億2500万人、アフリカが2億7800万人います。栄養不足人口の「数」ではアジアが最も多いものの、「割合」ではアフリカが20.2%と最も高く、5人に1人が飢餓に苦しんでいます。

それだけではありません。食料不安(重度・中程度)に直面する人も23億人います。FAOの予測では、2030年に6億7千万人(総人口の8%)が飢餓に苦しんでいます。SDGsの目標とする2030年に、その目標を掲げた2015年と同水準にとどまっている見通しです。フードロスが問題になっている背景がお分かり頂けたでしょうか。

オイシックスと廃棄食材を商品化 青稜中

青稜中学校の文化祭。生徒がつくった試食品には行列ができた=東京都品川区

私立青稜中学校(東京都品川区)は今年度、フードロスをテーマにした少人数のゼミ授業を展開してきました。食品宅配業界のオイシックス・ラ・大地が協力し、生徒はフードロスの原因などを学んだ上で、廃棄されることの多い食材を使った商品開発に取り組みました。9月の文化祭では、①シイタケの「じく」を使ったハンバーグ②昆布の根元を練り込んだそうめん③大根の葉を使った蒸しパンの試食会に行列ができました。

廃棄食材を使った試食品を手にする生徒。和風ハンバーグ、そうめん、蒸しパン(右から)

校長の青田泰明さんは「SDGsを肌感覚で理解してもらいたかった。学年の垣根を越えたゼミに企業の方も加わり、多様性の中で話し合いを深めることの重要性に気づいた生徒が多かったと思います」。中3の土谷萌愛さんは「受講前はフードロスという言葉を知りませんでしたが、食料問題を考え、母と無駄な食材を出さないように話し合っています」。3商品はオイシックス・ラ・大地で販売される見通しです。

青稜中学校で授業するオイシックス・ラ・大地の東海林園子さん(同社提供)

オイシックス 生産者のフードロスも解決めざす

オイシックス・ラ・大地の執行役員、東海林(とうかいりん)園子さんは、商流の川上に位置する生産者のフードロスに向き合いたい、と考えています。「商品開発につながったシイタケのじく、昆布の根元、大根の葉はいずれも、川上の案件です。自社だけでなく仕入れ先のフードロスの解決にも力を尽くしたい」と話します。小売業界の食品廃棄率は仕入れ商材の5~10%とされますが、同社は0.2%程度。サプライチェーン(供給網)全体を通じたフードロスの削減に取り組んでいます。

パイナップルの葉から天然繊維 フードリボン

ここからは、食材の食べられない部分を使ったビジネスを紹介しましょう。パイナップルの葉やバナナの茎に注目したのがフードリボン(沖縄)の社長、宇田悦子さんです。
捨てられていた資源を生まれ変わらせ、生産から消費後まで関わる全ての人を結ぶリボンとなることを社名の由来としています。 パイナップルの葉やバナナの茎は果実の2倍以上の量があるとされますが、収穫後はほとんど捨てられます。そこから良質の繊維を効率よく抽出する技術を新たに開発し、衣料品などに活用できるようになりました。沖縄で現在、繊維化が始まっています。

パイナップルの葉(上)と繊維のスジ(フードリボン提供、以下同)

触ってみると、通気性に優れ、軽くて光沢のある素材でした。フードリボンは沖縄県大宜味村に、持続可能な天然繊維産業の拠点をつくる計画を進めています。沖縄からスタートして台湾、インドネシアなど東南アジアでも事業を手がけます。

パイナップルの葉から抽出した繊維

宇田さんは「パイナップルの葉とバナナの茎は隠れた農業資源です。生態系を破壊しないためには、現存する畑に存在する資源の活用が大切です。このビジネスを農家の所得向上にもつなげたい」と語ります。

データシステムで食品開発、ロス削減へ 伊藤忠

食の将来を見据えた取り組みも始まっています。伊藤忠商事は昨秋から「FOODATA(フーデータ)」というデータシステムを通じ、食品開発を支援しています。勘と経験に頼り、試作品を捨てることの多かった開発に際し、味覚(苦み、渋み、うまみ、甘み、塩見)をデータ化し、商品情報(栄養、成分、原料、食感)や市場と購買の動きも勘案して消費者の好みに即した商品を投入するねらいです。あらゆる食品が対象です。

例えば、ケチャップを開発する時に「フーデータ」を使うとします。その場合、どの地域でどの世代が、どんなケチャップを好んでいるのかをデータで抽出します。商品を投入する地域では酸味の強い商品が好まれているのか、それとも甘みの強い商品が好まれているのか、といった具合です。

顧客である食品企業はそうしたことを踏まえ、どんな商品を投入することが「最適解」になるのかを知ります。導入事例は50社ほど。担当する伊藤忠食料カンパニーの塚田健人さんは「味覚をデータベース化し、消費者の嗜好(しこう)を「見える化」することで、消費者の好みと新商品とのミスマッチを防げます。結果としてフードロスの解決にもつながるでしょう」と話します。 海外では、一人ひとりに応じた「食のパーソナライズ化」が進んでいます。自分の健康を把握し、必要な栄養を含む食品を摂取して健康寿命を延ばそう、という流れです。フードロスの解決だけでなく、その先を見据えたが取り組みが日本でも本格化するかもしれません。



Previous
Previous

Agriculture : le gouvernement durcit le label Haute Valeur Environnementale

Next
Next

EU report warns of climate impact on foodborne diseases